ドラッグ&ロックン・ロール

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「生きる事より伝える事」zan80z ニューアルバムを聴いて。

zan80zのフルアルバムリリースが突如発表された。

 

https://twitter.com/zan80z/status/1313508328643809281?s=21

 

僕の音楽仲間でもある彼らのライブや音源を見聞きする時の僕は、ただのファンだ。純粋に心を躍らせながら聴く事ができる彼らの音楽について、僕なりのライナーノーツを残してみようと思う。

 

 

再生ボタンを押した瞬間から始まるクライマックス

 

一曲目はノスタルジック。タイトル通りに思い浮かぶのは音楽を始めた頃だ。僕の通った通学路が頭の中に浮かび、FIGHTSTARを聴きながら歩いた坂道と希望に満ちていたあの頃のあの感じ。それを彷彿させるアルペジオから始まった曲の流れに身を任せた。「これでいいのかな。」歌い上げる度に何度も上を向いてしまう。クライマックスの歌に畳み掛けられる感情への揺さぶりに、笑みと感傷が繰り返されてしまった。

 

その感傷余韻に浸ることを許さないと言わんばかりに二曲目に入ればcalling。僕たちは何度も振り返りながら生きていると思うけれど、足は必ず前へ、手は止める事なく生きる。それを力強く後押ししてくれる。生きていることは自然な事で流れる時間は平等な中で僕たちは一体何に生きる意味を求めるのか。

 

畳み掛けるグルーヴは僕たちの葛藤を全て持ち去っていく

 

「生きる事より伝える事 叫んでは響かせてた」この末尾で締められた二曲目からの流れを止めずに流れるのは3曲目のLIFE。まるでcallingの自問にたいするアンサーの様な曲なのに、何故か僕たちへの"問い"にも聞こえる。「僕らは答えを出した、君はどうだい?」とでも言いたげで、忘れかけてた事を思い出させてくれる。

 

アルバム前半の締め括りの4曲目はimagination。自問自答に決着をつけた主人公は身の内から溢れ出す衝動に身を任せて突き進む。それを後押しするバンドサウンドはまさに止まる事を知らない蒸気機関車だ。しかし果たして、轢かれたレールの上をzan80zというバンドが、大人しく走るだろうか?いや走るとは思えない。そして中番へ。

 

旅を経て成長する物語には欠かせない"別れ"その正体とは

 

5曲目はfarewell song。直訳すると別れの歌となるこの曲に込められているのは、一体どんな情景で、どんな人達のことをなのだろう。いや、そんな事を考えるのは野暮だ、きっとそれは聞き手に委ねられた物でもあり、聞き手が絶対に触れることのできない真相でもあるわけだ。前半戦の4曲とは打って変わってストレイテナーASPARAGUSのような中後期ロキノンムーブメントを感じる曲調に心を躍らせる。

 

6曲目orange seaは英詞で構成された歌でどこか懐かしさを感じる。cream stockやドーピングパンダ、Hawaiian6といった音楽の素養を、スパイスとして利かせた楽曲。そこに突如現れるガットギターの生々しい旋律が、懐かしい記憶に真新しい感覚をもたらしていて、まるでちょっとした時間旅行をしている気分になる。

 

時間旅行はまだまだ続く。

 

7曲目は碧いウェルダーネス。心気味良い四つ打ちのドラムスのグルーヴで軽快に進んでゆく物語半ば、過去を振り返り足踏みしていた前半の主人公の姿はもう何処にもなく、これから見る景色に胸を踊らせながら行く僕らの旅路は既に未来へと歩み始めている。

 

突如始まる物語の終わりはその先の未来へ想いを繋ぐ

 

全12曲で構成されたzan80zのニューフルアルバム「no night lasts forever」

 

8曲目のover and over againはまるで新しい物語の始まりのを予感させる、一つの章の終わり。前進する8ビートが土台となり、パワーコードが壁を突き破るこのグルーヴは、まるでアニメの1期が終わり2期が始まる時のあの感覚そのもので、物語と物語の架け橋になるような曲となっている。

「生きる事より伝える事 叫んでは響かせてた」2曲目の最後に告げられたメッセージを今まさに再び行動に移そうとしている、そんな曲だ。必死に生きることだけでなく、何かを残そうと直向きに動く事、それが彼らの"生きる(FIFE)"なのだろう。

 

 

物語の舞台は外の世界へと広がり続ける

 

 

異世界への一歩を踏み出すトライバルなアルペジオで始まる、アルバム後半の始まりは9曲目turn down。これこそzan80zの音楽の見識の深さなのか、様々な国の料理で構成されたフルコースのようだ。下手したら聞き手が、何を食べにきたか分からなくなるような混乱を起こしそうになる。けれど味わってみれば全く混同せず、そうそうこれを聴きにきたとうなずけるものに昇華させたzan80z 。バンドの歴史とブレない芯の強さからくる血の通った楽曲だからこそ成せる技だ。

 

あたかもそれが当たり前だと言わんばかりの説得力のある作品はさらに続き、まるでヒューマンストーリーアニメからいきなりバトルアニメに転換したかのようなストーリー展開のsoar、10曲目だ。突き抜ける歌にタイマンを仕掛けるようなドラムスは暴れ馬だけれど確実にバンドサウンドをアシストしていて、堅実なギターのコードワーク&ベースラインは、ここにきてより一層バンドのチームワークの固さを強く表している。

 

クライマックスに始まりクライマックスに終わる最高の1枚

 

アルバム終盤の訪れを告げるのはコーラス&リバーブの効いたギターアルペジオ、その曲の名は「夜明けが必ず来るように」。11曲目となるこの曲のタイトルに込められた思いは果たして、願いなのか、比喩なのか。人生の時間旅行に、異世界旅行を経て、このミドルテンポの楽曲からはゆっくりと足を進める僕らの背中を手のひらで押して行く力強いグルーヴを感じる。きっと作品を聴いてる僕たちは、胸を掴み目を閉じて噛みしめてるはずだ。

 

zan80zがフルアルバムを出した喜びと、僕たちが生きてきた時間は無駄ではないというバンドからのメッセージとして受け取る事が出来るだろう。なんて素晴らしいんだ。

 

一枚のアルバムという物語のエンドロールを飾る"thereafter"

 

アルバム最後の曲はまるで大作の映画を観終わった後にエンドロールを眺めているかの様な感覚を与えてくれる。それは決して悲しみや感傷を引きずらせるものではなくて、僕たちがまた新しい一歩を踏み出せるようにと願いを込められたものとなっている。

 

 

最後に

 

もしかしたらこのアルバムを聴く前と聴いた後では、人生観が変わってしまう人もいるかも知れない。特にバンドマンに向けて送られたエールの様にも聴こえるし、今の暗い世の中を生きる人々が前を向けるようにと込められたメッセージにも聞こえる。

 

計ってか計らずかリリースのタイミングと重なった世界的な未曾有の事態。このコロナ禍によって、大切な場所を失ったりやる意味を見出せなくなり辞めていった多くのバンドマンや音楽家達がいる。

 

あくまでも楽曲に込められた想いの答えは、作品には明記されていない。しかし、僕はこの作品を、過去に夢を置いてきてしまったそんな人達にこそ聴いて欲しいと強く思った。「生きる事より伝える事」を選んで生きてきたはずの僕たちの魂は、きっとこのzan80zからメッセージに呼応するはずだ。

 

 

zan80zのニューフルアルバム「no night lasts forever」を聴いて-リョウマサヒロ-